カーテンの隙間から淡い日の光が差し込む夕暮れ時の医務室。
「先生はいないみたいだな……」
膝に擦り傷を作ってしまったイェンスをつれて、俺はここにやってきた。
「だから、別にこんなの舐めときゃ治るって!」
気にするなと何度も繰り返し、出て行こうとするその腕をひっぱり
俺はそこにあるベッドに強引に座らせる。
「だめだっていってんだろ!お前はそんなだからそこらじゅうに生傷が残ってんだよ」
「それは……と、とにかくいいっつってんだろ!」
頑なに断るのを不思議に思い、その視線を追うと
そこにあったのは、消毒液。
もしかして……

「染みるから嫌だ……とか?」

「……べ、つに平気だって!」
泳いでいる視線とそのどもり具合、答えは明白だった。
「お前嘘つけないんだな」
うっせぇ!と真っ赤な顔で反論するあたり、自分で答えをいっているようなものなのなのに。
そう思うとまた笑いがこみあげてくる。
そんな俺にも気づくことなく、更に大慌てで言い訳を考え、あーでもないこーでもないと頭をひねるその姿が
なんだか妙に……可愛かった。
そう思うと同時に本当に衝動的に
俺はその傷口をぺろりと舐めてしまった。猫がミルクを舐めるように。
まるで魅せられたように夢中になって。






すると






「あ……んっ」
ふいに色っぽい声がふってきた。
そして一瞬だけれど、びくりと身体が震えたのを俺は見逃さなかった。
はっと我に帰って視線を戻す。

「あ……わりぃ」
「ん……い、いや!大丈夫……」

ほんのり頬が紅潮しているように見えたのは気のせいじゃないと思う。
そう考えると、何もかも自分からしたことだというのに今更妙に気恥ずかしくなる。
目をあわせることができず、もう一度視線をおとし今度はきちんと手当てをする。
消毒液をコットンにとってそっと傷口にあてると、ひゃっと驚いたような声を出して
イェンスもやっといつもの様子に戻ったようだ。

「い、いたい!染みるっつーの!だから嫌だっていったじゃねーか!」
「嫌だなんて一言だって聞いてねーぜぇ?」
「……んだよもう!」
この時、自分でも驚くほどほっとしている自分がいた。



このときから。イェンスのことを変に意識するようになってしまった。
たくさんいるチームメイトの中の1人なのに……。
あの色っぽい声を、紅く染まった頬を、可愛い顔を
忘れられない。頭にこびりついてしまったかのように毎日毎日そればかり想う。



……はぁ。どうしちゃったんだろう俺。











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071129 ブログにのみこっそりあげてたお誕生日企画連続ミニ小説第一弾でした

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