―――マッチ売りの少年―――
降り止まぬ雪の中で少年はただ、立ち尽くすことしか出来なかった。
マッチを売ってなんとかお金を得ようと思うのだが
街行く人はみな素通り。
かじかむ手。
赤くなる耳。
吐く息ももちろん、とても白くて。
「頼む!マッチ買ってくれよ!頼むから!」
縋りつくようにそう声にしても、誰一人として立ち止まってくれる人はいなかった。
「なんだよ、マッチ一本くらい……買ってくれてもいいじゃねーか!」
たまらず少年は悪態をつく。
家に帰ろうにも銀貨のひとつも持っていない自分を
親父が中に入れてくれるはずがない。
「はぁ〜……どうすっかなぁ……」
といってもどうすることも出来ないのは自分がよくわかっていた。
身体の冷えも、そろそろ限界だった。
「マッチでも擦るか」
棒を壁に擦りつけて火をつける。
ゆらめく炎の中には、美味そうな飯と暖かそうな暖炉が映って、
そしてすぐにパッと消えてしまった。
「あったかそうだなぁ、あのスープとか……食いてぇなぁ……」
本当に一瞬ではあったけれど、少年は心がぽかぽかして
幸せだった。
「もう、一本だけ……」
すると今度は満面の笑みを浮かべる俺の顔。
あぁこんな顔をしたのは、どれくらい前だっけ。
これから先、こんな顔をするときが来る……のかな。
身体の感覚がなくなっていく、もう、ダメかもしれねーな。
ふと手を見ると中に1本だけ、マッチが残っていた。
振り絞った最後の力でその1本をこすると、
ゆらめく炎の中、見えたものは
「影……人の影……?」
その影は段々と近づいてくる、しかしふっと吹きかけられた何かで炎は消えてしまった。
それなのに……
「え?」
影は消えることなく、俺の手をとって両手でぎゅっと暖める。
思わずその顔を見上げると、そこには1人の男がかがんでいた。
何も言わずにただそっと、あたためてくれる。
流れていく時間が、不思議だった。
しばらくして雪をそっと払って、そして男はそのまま立ち上がる。
「俺がもっとあったかくしてやる、だから一緒に、来い」
「……あぁ!」
こうして少年は幸せに……なりそうでしたが、
それにはまだ時間がかかるようです。
「どこだ……?ここ」
途中上着とマフラーを与えられた少年は、何を疑うこともなく嬉しそうについてきた……?
「ここ?見ての通りホテルの部屋。結構いい部屋だろ?」
「あぁ確かに……っておい!こんなの台本にねぇぞ!」
にこやかな笑顔は消え、代わりに不審そうな表情を浮かべてイェンスはマフラーをはずす。
しかしそんなイェンスをキアは嬉しそうにニヤニヤしていた。
「なんだよ!」
思わず一歩後ずさるイェンスに、キアも一歩近づいた。
そしてその肩を掴み、終わってはいないと小さく笑う。
「だ……って台本、ここまでだったじゃねーか!」
精一杯のわめき声もいつしか甘い甘い喘ぎ声に変わってしまっていた。
「や……ぁあ、あつ……い」
ったり前だろ、あったかくしてやるって、約束だしな。
こうしてマッチ売りの少年は心も身体も荒れ狂うようなあたたかさを手にいれました。
めでたしめでたし。
ハメられたーっ!
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070122 パロディと最後のアレがやりたかっただけです。大満足です。