触れる指先から、いつも以上に熱い彼の体温を感じた。
思わず後ずさってしまいそうになったその身体を
彼は容赦なく抱きしめて、自らの腕の中に収めた。
本気で振りほどこうとすればいくらだって出来るはずのその腕を
振りほどかなかったのは、自分だ。
「いいんだな」
「あぁ」
酷く熱っぽい視線を感じて逸らしていた自分の視界に凛だけが映った。
頬を持ち上げられて、ついばまれるように口付けられる。
次第にそれはだんだんと深く深くなって、正面から、斜め下から、上から。
味わうように何度も何度も、口付けられた。
「う……んふぅ?」
やっと開放されたと思えば、息をつく暇もなく今度が舌を入れられた。
ざらつく舌が歯列をなぞるその感覚に、ぞくりと衝撃が走る。
「……んん!?」
無意識に開いてしまった口の中へ、ここぞとばかりに凛の舌が滑り込んだ。
逃げようとした俺の舌をいとも簡単に捕まえて、
そしてまるでこっちへ来いと引き寄せるかのように、動き回って自らのそれと絡ませる。
「ん……はぁ……ぁ」
気持ち……いい。
こんな感覚は初めてだった。
頭の中が痺れるまでに甘美な感覚。
何も考えられなくなってしまいそうなほどの情熱的なキス。
「う……んんっ」
そんな感覚に溺れそうになりながら、余裕そうな凛に少しだけずるさを感じていた。
自分はこんなに翻弄されているというのに……
俺は閉じていたまぶたをうっすらと持ち上げ、そっと盗み見る。
じっとりと汗ばんだ首筋と少しだけ震える睫毛。
頬も真っ赤に火照っていて、いつものやんちゃくれからは想像できない
真剣な姿がそこにはあった。
なんだかちょっと可愛くて、俺はもう一度おとなしく瞳を閉じると
応えるようにその舌に少し強引に巻きつける。
驚いたのか頬を掴んでいた凛の手が一瞬震えたが、
それはその手に更に力を込めさせる結果となって。
「ふ……うっ」
腰が砕け、凛の渦巻く熱い吐息の中に抱きとめられた。
「……っ、はぁはぁ」
「はぁ、はぁ……」
どうしてかこの時の俺には背中越しに感じるやつの息遣いがとても官能的に感じて
意味もなく、震えた。
「……どうした裕次郎?そんな強く俺の肩掴んで。爪、食い込んでるぜ」
「あ、いや……」
いつの間に力など入ってしまっていたのだろう。
自分でも驚いてぱっとそこから手を離したのだが
その手は凛に掴まれもう一度そこに置かれた。
意味がわからず上を見ると、そこにはニヤリと何かを含んだような笑み。
「俺にそんなに痕、つけたい?」
「な……にバカ言ってんだ!」
あまりに突拍子もないその言葉に、恥ずかしさがこみ上げてきてふいに視線を逸らす。
またからかうなら今度はこっちが仕掛けてやると、もう一度やつの方を向くが
しかし自分が踏んでいたのとはまるで違う表情に、俺は無意識に口をつぐんでしまった。
まっすぐで逸らせない凛の視軸に息を呑む。
「それとも、怖い?」
その意味する先は俺にもわかる。
間違いなく“これからすること”のことだろう。
「……怖くなんかねぇ」
口先だけならなんとでもいえた。
けれど本当はその先のことなんか想像も出来なくて、凄く不安だった。
足も少しだけ、ガクガクする。
「怖くなんか、絶対」
そんな俺の様子に何を感じ取ったのか、凛は俺の右手を優しくとって
あたたかいその両手でぎゅっと握ってくれた。
「……大丈夫。俺に全部任せれ」
小さくそう囁いて、そしてしばらくの間何も言わずにただ、抱きしめてくれた。
いつの間にか足の震えも止まり、打ち鳴らされていた早鐘もだいぶ落ち着きを取り戻した。
彼のぬくもりに包まれて彼の鳴らす心臓の音を聴いていると、不思議ととても安心できる。
「サンキュ」
耳元に、彼だけに聞こえる声でそっと呟く。
そして唇に重ねるだけのキス……『いいよ』の代わり。
「あ……くっ」
制服のシャツをたくし上げられて、胸のほころびに汗ばんだ手が触れると
風が通り、ぞくりと快感が駆け抜ける。
同時にきゅっとそれが自己主張をするのがわかった。
「硬くなってんな」
「う、るせぇ!」
少し後ろに手をつき投げ出している、そんな俺の両脚の間に凛はいて
俺の身体を少しずつ探るように手を滑らせていく。
ただ撫でているだけだというのに、彼が触れる場所には次々に熱が生まれていった。
単純だな、俺の身体。なんてどこか他人事のようにさえ思う。
「おい、ほかのことに気とられてんじゃ、ねぇ」
やけに焦ったような表情で俺の顔を覗きこんで、
まだ穿いたままのズボン越しに俺に触れた。
「ひあぁ!」
身体がびくっと反応して、俺の背は大きくのけぞる。
やめろ、とその手を引き剥がそうとすると、予想外に凛は小さなため息をついた。
「俺だってそんな余裕ないんだから……集中、してくれよ……」
「凛……?」
いっぱいいっぱいで、それでも俺のことを気遣ってくれるあいつはやっぱり可愛くて。
だから、俺はそっとそのおでこに唇を触れさせる。
「わかってる、それと……悪かった。集中するから、続けて」
そんなの俺だって、同じだ。
「あ、んぁ……ぁ」
ズボンを寛げられて、シャツは脱がされて、そんな卑猥な姿も
我慢しても時々漏れてしまうまるで女のような高い声も
全てが今しているこの行為を生々しくおのれの頭に響かせる。
扇動されていく熱情に羞恥心まで失ってしまいそうになるくらいに淫靡で恍惚とした感覚。
「どう、だ?」
凛もまた煽られているのか、1枚の布越しに少しじれったそうに俺自身に触れると、そう尋ねた。
全身から信号が出ているというのに、それを把握することも出来ないくらい彼ものめりこんでしまっているのだろう。
答えなどもはや、最初から出ているというのに。
「あ……凛ん、いい……、ああ」
うわずった声を聞かれるのはなんだか面映い感じがして、精一杯言葉を搾り出す。
それでもやはり甲高い声は漏れてしまって、なんか格好悪い。
「そっか、へへ」
それなのにそんな俺の顔を見た途端、嬉しそうにはにかんで、
今度はもっと強めに触れられる。
その時の俺は既に、結構いい具合にまで成長してしまっていて……。
「っまえ……可愛い」
もう窮屈だろうと、いつもより少し低めにかすれた声が囁くと
あっさりとパンツまでも下ろされてしまった。
熱く濡れたそこは急に外気に晒されて、一気に全身に電撃が駆け抜ける。
くすぐったくて小さく身をよじると、やつはその一瞬の隙をついてそのまま
俺を床に押し倒した。
余裕なんてないはずなのに、俺が痛くなかったのはやつなりに気を使ってくれたのだろう。
そういう小さな優しさが俺を凛につなぎとめて、男同士だという建前も忘れて
嫌いになるどころか俺の想いを逆行させる。
凛は熱に躍らされたように俺自身に触れていく。
「はぁ……あ……うっ」
ときに擦ったり、握り締めたり、爪で引っかいてみたり。
その一つ一つの仕草に俺もまた、鼻にかかったような甘ったるい声をあげる。
先ほどとは比べ物にならないほどの熱が身体中を巡り、一点に集中していくのがわかる。
そのなんともいえない恍惚感に悲鳴をあげる身体。
すると、凛の指が俺のあられもない場所を掠った。
いよいよなんだと思うと意に違わず、少しの恐怖を感じる。
いとおしそうに俺を見つめるやつの唇に、そんな思いを振り切るように噛み付いた。
大丈夫だ、と言い聞かせて。
ぎこちない手つきで先走りの蜜を塗りつけるようにしながらそこを少しずつほどいていく。
そしてするっと1本指を滑り込ませた。
「……ってぇ……っ!」
充分にほぐしたつもりでもまだ入り口は全然狭くて、
無理やり侵入してくる異物を押しやるようにして拒む。
物凄く痛くてもう悲鳴も出ない。
苦痛に歪む俺のおでこに頬に唇に、何度も申し訳なさそうに触れる凛が切なかった。
だから余計に、少しでも応えてやりたくて、
俺は小さく大丈夫だと口にする。
本当は全然大丈夫じゃないかもしれない、けど……。
「ひあ……あっ!」
あまりの痛さに朦朧とする意識の中で、おもいがけず重なってきた腹が俺自身にぶつかり
萎えかけていたそこにまた、一瞬にして火が灯された。
痛さから逃れようと俺はただ必死にその情欲を追って何度も何度も擦りつける。
羞恥心だとか自堕落だとかすら考えられなくなってしまうほどに。
「ん……ぁあ、はぁっ」
そうしている間にも挿入される指の本数は確実に増えていく。
その度にその苦しさから逃れようと、また熱情に溺れていった。
「んあああ!やぁ……っ、そこ…だ……っ!」
しかし、それは突然やってきた。
いれられている指が触れた場所から溢れる熱が瞬く間に広がっていく。
なんだ……これ。
「ここ?」
どこか安堵したような表情で俺に情熱的な視線を向ける。
「ちが……あぁ、んぁ!」
信じられないような高く甘い声が部屋中を震わす。
その快感が怖くて、いやだと何度も首をふるのに身を捩るのに
湧き上がる情欲は尽きることを知らない。
凛はそんな俺を尻目に何度も何度もそこに触れる。
意味もなく涙が溢れてきた。
こんな快感、こんな情欲、知らない。
「こ……わい、いや…っだ……凛!」
そんな俺の取り乱した姿を見ると、指を引き抜き
何も言わずただ抱きしめて、撫でていてくれる。
渦巻く熱情の中でも、気分は安らいでいく。幸福感。
俺は信じたい。ううん、こいつを信じる。
「もう、いい……だから……っ」
「……裕次郎」
俺の名を呼ぶその声の中に詰まった全部のものが、安心させてくれる。
凛の熱くて硬いものがもう、そこまで来ていた。
「ああああっ!う、っく」
先ほどまでとは比べ物にならないくらいの圧迫感。
痛さもまた、比べ物にならないものだった。
「ごめん……っ」
「あやまん、なよ……ぁくっ!」
凛は俺自身に触れながら苦痛の過ぎ去るのを待ち、少しずつ少しずつ腰を進めていく。
余裕のない中でのそんな気遣いが、俺には嬉しくて。
凛が自身に触れ、与えてくれる熱を貪欲に追っていった。
「っはあっ、ん!」
刹那、熱いものが先ほどの場所に当たった。
まただ。またそこから驚くほどの恍惚感が溢れていく。
苦痛が快感に変わっていく……
襲いくる快感の波にどうしていいかわからず俺は、
ただ吐息と止まぬ喘ぎをこぼすばかりで。
「あ、あぁ……ふぅ、んん」
あまりの快感にどうにかなってしまいそうだった。
熱が身体中を支配していく。突き動かしていく。
「いい……っんだ、腰、自分から揺らして」
「っるせ……あっ、ああ!」
扇情的な眼差しが俺を高みへと追い立てる。
もう完全に痛みなどなくなっていた。
ただ押し寄せる快感に身を委ねて……
「も…、やばい、無理……っ」
「俺、も…あ、あぁ……!」
心地よい気だるさが全身を覆った。
この行為で仲間という繋がりは途絶えてしまったけれど
不思議と後悔はなかった。
それよりもっと近くに彼を感じることが出来たことが、逆に嬉しくさえ感じていた。
あいつが何か言っている。途切れ途切れでよくわからなかったけれど
あぁ、こいつの胸、気持ちいいかも……なんて、遠のいていく意識の中でなんとなくそんなことを思った。
「ったく……まえは……」
少しだけ濡れた、唇の感触。
「凛」
「あ?」
「好きかも」
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2008/1/17
去年の10月頃書いた。萌えるけど、あの学校の制服はない。