「だーかーらー!ヤキモチ焼かせんだっつーの!」
驚いた顔で赤い髪が振り返る。
満点の星空の下、金色の髪をなびかせ頬を膨らませる少年は
そして寂しそうに目を伏せた。
だから、今日はしばらく洋館には戻らないと、そう言うのだ。
「どうしたのガイ?急にそんなこと言うなんて」
なんだか、らしくない。
頑としてその場に座り込み、動かないガイに心配そうにマヤは尋ねる。
縮こまるようにしていた足を更にぎゅっと自らの方に寄せると、ぽつり呟いた。
「だって、……心配してくれねーんだもん」
ガイが言うには、数日前ちょっとした用事がありながら
みんなに言付けするのを忘れて、慌てて戻ったとき
シンとレイにだけしかられたということだった。
ガイの想い人は知っている。
その人が心配すらしてくれない、その事実がそれがたまらなく寂しかったのだろう。
「ガイを泣かせるなんてひどいよ……、僕の大切な友達なのに」
掠れ気味の声はきっと、震えてしまいそうなのを必死で堪えているのだろう。
「僕、ゴウ兄さんに文句言ってくる!」
走り出そうとマヤが立ち上がると、ガイはそんなマヤの服の裾を掴み
ここにいて欲しいとばかりにその手の平に力をこめた。
マヤはそんなガイの隣にもう一度腰を下ろすとガイの頭を撫でた。
「大丈夫、僕が今日は傍にいるから」
ガイは素直にそんなマヤに甘える。
虚勢を張っていたのも、そんなのはただの強がりで本当は心配して、迎えに来て欲しいのだ。
寂しいのだ。
一緒にいてあげたいとマヤは思った。
「ふぅ、まったく」
それからまもなく、月明かりに大きな2つの影が落ちる。
「兄さん!……と、ゴウさん」
その名に反応したのかガイもマヤと共に振り返った。
「マヤ……心配したんだぞ、こんなところで」
「だって!兄さん、ガイが可哀想で!」
キラの言葉にマヤは答えたが、関係ないとばかりにキラはマヤの腕を引き無理やり立ち上がらせた。
「それはガイとゴウさんの問題だ」
「でも!」
帰るぞ、とそのままその手を掴み、マヤを引き連れた。
しかし気になるのかマヤは何度もガイを振り返る。
そんなマヤにキラは優しい眼差しで言った。
「偉かったぞ、マヤ」と。
「何やってるんだ、俺たちも行くぞ」
一度は振り返ったものの、再び背中を丸めて顔を見せないガイにゴウはそう声をかけた。
しかしガイは嫌だと首を振るだけで何も答えず、その場を動こうともしない。
ゴウは困ったようにため息をつくと、小さな声で言った。
「あまり、心配かけさせないでくれ」
その言葉に驚いたガイはようやく顔をあげた。
そしてすっかり赤くなった瞳は、見上げるようにしてゴウのそれを映す。
「心配……してくれたのか?」
「してないとでも思ってたのか」
震える声で聞くと、同じように質問が返ってくる。
ゴウは視線が同じ高さになるようすぐ隣に腰を下ろした。
「お前はどんなことがあっても俺のところに戻ってきてくれると信じている。
だから少しくらい遅くなっても、心配はしないことにしていた。だが……」
つい過保護になってしまい気味な自分を、ゴウは抑えていた。
本当は少しでも遅ければすぐ気になってしまうし、ケガをしたと聞けばすぐにかけつけたやりたくなる。
けれど、もうガイも立派な青年天使だ。
あまりにも干渉し過ぎるのはよくないと、そう考えていた。
「やっぱり、ダメだ。お前のことは気になる!」
「ゴウ、俺嬉しい」
消え入りそうな声で、ガイは小さく言葉をつむいだ。
それから地面に置いているゴウの手にガイは自らのそれを重ねて。
そっと握り締めた。
「ゴウにだったらいっぱい干渉されてもいい、ううん、して欲しい」
いっぱい心配して欲しいし、いっぱい気にして欲しい。
「全くお前は……いつまでたっても子供だな」
言葉とは裏腹に、ゴウのそれには優しく甘い響きが含まれていて
ガイは擦り寄るようにその腕に絡みついた。
「ゴウの前でだけ!」
そんな幸せな時間は、眩いばかりの笑顔を浮かべて―――。
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08/1/28 こっそりマヤガイも好きです…子供が好きなんです。