ふたしか







眩しくて、掌を日にかざした。
指の間からこぼれる光をぎゅっと握り締めるけれど
掴めるはずもなくて、そんな単純で当たり前のことが切なかった。

「……どうしたら」

兄弟のように育ってきた中で、芽生えてしまった小さな種は
日々大きくなってしまうばかりだった。
抑えているはずなのに、あいつの笑顔は、声は、仕草は、
全部は肥料となり、日となり水となる。

育ちすぎて自分の中に収まらなくなるんじゃないかと、時々思う。





「……って、考えてても仕方ないか」

もうすぐ鍛錬の時間だってあいつが迎えに来る。
早く準備しないと、またしかられてしまう!

「うわ!やっべ!」
時計を見ると約束の時間まで残り15分。
そんなに考え込んでいたつもりはなかったのだが
無意識のうちに時間はどんどん過ぎていたらしい。
そこで俺はようやく服に手をかけ、着替えを始めた。
しかし焦る気持ちばかりが先を行って、不器用に拍車がかかったよう。
そう、こういう時に限ってうまく脱げない。



と、突然扉の開く音がした。
振り返るとその主と目があう。

「あ……ゴウ、おはよう」
びっくりして時計を確認する。
もう5分はとうに遅刻していた。
「わ、わりぃ!すぐ支度する!」
早く着替えようともう一度ボタンに手を這わすと
そろりと少し大きめのパジャマが肩からずり落ちてしまった。
「わ……っ!」
そこから華奢な背中が露になる。
慌てて戻したが、ゴウは多分今の……

「わ、悪かったガイ。後ろを向いているから早く着替えを済ませろ!」
ちらっとゴウに視線を向けるも、既に後ろを向いてしまっていて
それはわからなかった。

「う、うん」





どう思われただろうか。
好きな人の前で肌を晒してしまった。
湯浴み等で何度も見られているとはいっても、あぁいうときには心の準備が出来ている。
こうして思いがけなく見られてしまうのとは、違う。

恥ずかしい。





……ダメだ、考えたら!

首を大きく振って邪念を取り払い、俺は1つ深呼吸していつもの白絹に袖を通した。



外は包み込むような穏やかな風が気持ちよくて、
身体を動かしていると夢中になれた。
そのうち、そんな朝の出来事なんて忘れてしまっていた。










「んぁ?どうしたんだ?」

少し休憩をしようと木陰で涼んでいると、
ほどなくゴウが泉の前でそわそわしているのが見えた。
顔を洗ったのかと思えば首を振ってみたり、ため息をついてみたり。
不思議になってその顔を覗くと、水鏡の映った俺の顔に、驚いて振り返る。

「な、なんだ?どうかしたか?」
明らかに上ずった声に逸らす視線。
「いや、何してんのかなーって。一人百面相みたいに、こんな顔とかしてるから……」
ゴウのほっぺをつまんで持ち上げると、水面のそれが揺れる。
「それは、その、いや、なんというかだな、つまり……」
と思ったら今度はしかめっ面で。
一方の手をほどき、ぱしゃぱしゃと波立てるとくるくると表情を変える顔が
更にゆれて、それがなんだか楽しくて、笑った。

「それ、不意打ち〜っ!」
その手で水を掬い、顔にかけてみる。
すると今度はくしゃっとして、ゴウの顔のパーツは一点に集中した。
その姿がまた面白くて、またくすくすと笑ってしまう。
「へへ、ゴウの顔おもしれーな!」

すると油断していたその隙に泉の水をかけ返される。
「……ったく、お前は隙がありすぎだ」
水が入ってしまって、ごしごしと目を擦ると
不意に何か唇に当たったような気がした。

濡れてて、温かくて。
なんだ……これ?
ぼやけた瞳で見えたものは、ゴ、ウ……?



視界のもやが消えた頃にはもう何も元通りで、
けれど残る感触とほのかな香り。
じわじわと火照りが、身体中に充満していく―――。

「今の、な…に?」
おそるおそるゴウを見上げるけど、答えはなくて
ただ変わらず穏やかな風が頬を撫でていくだけ。



どちらからともなく水鏡を覗き込む。
そこには揺れる2つの赤い顔だけが、ぴったりとくっついて並んでいた。










眩しい光に掌をかざす。
ぎゅっと光を掴んだら、今度は少しだけ温かくて
それはもしかしたら、近い将来完全につかめるかもしれない。

そう思う。










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2008/1/17
去年の11月頃書いた。目に見えないものは不安定。

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