タイトル『紫陽花』















毎日毎日雨、雨、雨。
雲の波で青空が見えない。

「雨なんか……嫌い。」

窓辺から外を覗く。

だっていいことなんかないじゃない。
折角の新しい服も靴も汚れちゃうし、じめじめして気持ち悪い。
荷物も濡れちゃう。
それに今日みたいに傘忘れちゃったら、帰れない。

「まだ止みそうにないなぁ。」
雨はしとどに降り続けている。
つい、一つ大きなため息をついてしまった。






「なーに深いため息なんてついてるの?」
教室の机。向かい側に座る金の髪が揺れる。
「雨が止まないからよ。」
この窓からふく風が好きなのに、窓も開けられない。
しとしと音を立て続ける雨。

「ねぇ ちゃんは、そんなに雨が嫌い?」
「大嫌い。」

思いのほか強い口調だった私に驚いたのか
向かいの人物は目をぱちぱちさせて、そして窓辺に立った。

「僕は好きだけどなぁ。」
私の方を振り返り見、今日みたいに ちゃんと一緒にいられるじゃん、
そう微笑む。
「軽井沢くんはそう言って、いつもいろんな女の子に言い寄ってるわけね。」
今更のことだ、あきれるなんて当の昔に通り過ぎた。
ため息もつけず、またそっと外を覗く。
「違うよー。」
慌てて椅子に座って私に向き直る軽井沢くん。

「じゃあ何で雨なんて好きなのよ?」
ほかに理由なんてないくせに。
そう思いながらも何となく、まだ軽井沢くんと話していたくて
話を続けた。
けれど言葉につまると思っていた私の予想は簡単に覆された。

「ほら、見てみてよ。あれ。」
窓辺から2人で指の指された方を見る。
水がかかるから嫌だといったのに、いいからと腕を軽くひっぱられて。
「紫陽花、綺麗じゃない?」
「え……?」
どこに?
同じところを見ているはずなのに見つからないのがもどかしい。
もうちょっとだけ……。
「あ、 ちゃん。乗り出しすぎないで、危ないから。」
そう言って私をそっと押さえてくれる。

「あ!もしかしてあれ?青と、ピンク!」
乗り出す私にくすくすと笑みを漏らしながら、そうだよと軽井沢くんは口にした。
「本当だー、綺麗だね!」
素直に私が驚いていると軽井沢くんはかばんからタオルを探していた。
「そうそう、紫陽花ってさ水もしたたるいい女。そんな感じがするんだよねぇ。」
やっぱり女なのね……
何も期待なんかしていないはずなのにちょっとむっとした。

「今の ちゃんもそんな感じじゃない?気づかなかった?頭びっしょりだよ。」
やっと見つけた、と軽井沢くんは白いタオルをかばんから取り出す。
そしてそのままそれを私の頭にのせて……
手馴れた手つきでわしゃわしゃと拭った。

むずがゆくってなんだかドキドキする。
雨で髪が濡れるのなんて大嫌いなはずなのに
こうして濡れるのは嫌じゃなかった。
それにこうやって軽井沢くんに髪をふかれるのも……

そして思い出したようにこう言った。
「どう?雨もたまにはよくない?」
「よくな……くはない、かな。」
なんだか少しだけ恥ずかしくてぶっきらぼうになってしまう。
「でしょ?」
ふっと笑みを浮かべてもう一度窓を閉めて紫陽花を見る。

紫陽花……かぁ。






「ってわけで僕と帰ろう。実は傘、持ってました。」
「な……だったら最初から出しなさいよー!」





こんな日もあっていいかな。
少しだけ雨が好きになりました。
















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梅雨の季節ってじめじめするし洗濯物乾かないし嫌いです。
少しでも梅雨が楽しく過ごせたらいいのにねー…。


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