タイトル『Charm only for you』
「ほら!チケット……折角近くで試合あるんだから来いよ。」
結婚してからオフの時しか一緒にいられないミズくんが
そう言ってチケットを手渡してくれた。
意気揚々と足を運んだのはいいが
そこで改めて自分のことを思い知らされた
そんな気がしてしまって。
やるせない気持ちが心にもやもや渦巻いた……。
周りは皆若い女の子でいっぱいだった。
若いコならではの黄色い声援,響く声。
若いコならではのみずみずしい肌。
ピンとはった綺麗な顔。
比べて自分の掠れ始めた声。
自分のシミが目立ってきた肌。
小ジワも目立つようになってきた顔。
仕方のないことだってわかっているけれど
何故か見せ付けられてる感じがして
どうしてもイヤだって……納得できなかった。
そんな時たまたま近くにあった雑誌の記事に
今の私の状況を打破してくれる“若返りクリーム”なるものを見つけて
ついつい手を出してしまったんだ……。
それで火がついちゃってどんどん若返りグッズを買い込んでしまった。
「もう!全然効かないじゃない!……はぁ。」
何だかんだと,気づけば若返りグッズに結構な金額をつぎ込んでしまった。
それだけ効果が出たのなら満足も出来る。
しかし,そんな熱烈な思いとは裏腹に効果はあがるどころか油断もあったのだろう
逆に増えてしまった気さえした。
「あぁあ……。」
通帳と家計簿を交互に見ながらため息だけが繰り返される。
「ただいま。」
すると予告もなしに帰ってきたミズくん。
「えーっ!何で!?」
一瞬にして怒られると悟った私は慌てて目の前のもの一式後ろに隠したのだが……
「ん?お前今何か隠してなかったか?」
扉を開けてリビングに戻ったミズくんに簡単に見抜かれてしまった。
「な……何言ってるの?そんなわけ……。」
まっすぐな目に嘘をつける程肝が据わってるわけでもなく
そっと目をそらして口元を押さえる。
「それなら右手出してみろ。」
もぞもぞと左手に通帳と家計簿を。
しれっとした風を装って右手をあげる。
「それじゃあ次は左手だ。」
もぞもぞと今度はそのまま戻した右手に…。
そして目を泳がせながら左手をあげる。
「じゃあ最後は両手……あげてみ。」
「う……。」
ガサッ
こうなりゃヤケクソよ!
音を立ててそのまま下に落として両手をあげた。
そして案の定
「これだな。」
と落ちたものをひょいと拾い上げた。
……眺めるミズくんの顔もだんだんと曇っていく。
「お前利亜……これ何に使ったんだ……?」
頭を抱えてミズくんが小さく声にする。
これはもう嘘をつけるような状況じゃない……。
仕方なく私は本当のことを告げた。
「み……ミズくんのファンの女の子,皆若くて可愛くて……。」
真剣に耳を傾けて相槌を打ってくれるミズくん。
「理不尽だな!って思ったの。そりゃ……端からみたら馬鹿みたいだけど悔しくて。」
ぎゅっと拳を握り締めて。
「だからいっぱい若返りグッズ買っちゃって……でも全然駄目でそれで。」
「お前なぁ……。」
怒られると思った。
怒鳴られると思った。
でもそんな彼から私の頭上に降ってきた言葉は全然違うもので。
予想もしなかったもので……。
「まぁなんつうか……年をとったからこそ出てくる美ってあると思うんだ俺は。
あー……お前の魅力はお前にしかないわけで,気にすることじゃないし,むしろ……。」
意外な言葉に驚きを隠せずそっとそんなミズくんの顔を覗くと
プロポーズしてくれた時みたいに真っ赤な顔して
「……こんな風になるまでお前と一緒にいられたって証にもならねーか?それ。」
それはそれはこれ以上ないというくらいの照れた表情。
「だから気にすることないっつぅか……別にそんな,あー……。」
締めくくりの言葉が見つからないのか罰が悪そうにふいっと顔を背けるミズくん。
えへへ……ふふっ。
その瞬間私に笑みがこぼれてきた。
我慢しようとしてもニヤけてしまう頬。
「うわぁ!笑ってんじゃねーっての!これでも……ちょっと怒ってるんだからな。」
そう言ってミズくんは私をぐっと引き寄せてすぽっと腕の中に収める。
「まったく無茶してんなよ。
は
なんだから……な。」
「うん。」
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自分も年とったらこんな風に言ってくれる旦那様が欲しいぁ〜…。
とか思って書きました。
タイトルは君だけの魅力を英訳したものです。
いつも学生のうぶ恋愛って感じのばっかりかいてますので
夫婦だからこその何でも受け入れあってる2人という設定で書いてみましたよ。
自分の魅力は自分にしかないように自分は自分,他人は他人です。
そう思えたらいいなぁ(笑)
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